2013/6/26

第46回疫学研究学会(SER)年次総会(@ボストン)レポート

運行が再開されたばかりのボーイング787機で成田からの直行便に乗り込み、約13時間のフライトで降り立ったアメリカ東海岸の街、ボストン。このアメリカの古都といえる場所で、2013年6月18日から21日に開催された第46回疫学研究学会年次総会 (46th Annual Meeting of the Society for Epidemiologic Research)に参加してきました。ボストンでSERが開催されるのは2007年以来、6年ぶりのことです。私がSERに初めて出席したのは2007年にボストンで開催されたときだったので、今回はなんだかホームグラウンドに戻ってきたような…、そんな懐かしい感覚があります。学会会場は前回に引き続き、ボストンパークプラザホテルです。ホテルのすぐ近くには、名物のスワンボートがあるパブリックガーデンや、アメリカ最古の公園であるボストンコモンがあり、美しい緑が広がっています。そのような以前とは変わらないものもある一方で、ホテルのすぐ近くで生じたボストンマラソン爆破事件の惨劇…。そして、6年前のSER参加時と比べると、日本人研究者を含めアジアからの出席者がかなり多くなり、学会プログラムの中心を担っている面々にも新たな顔ぶれが…。このような状況に時の流れを感じつつ…、Time changes, so do people.

学会会場であるボストンパークプラザホテル周辺のダウンタウンには、古い歴史的な建物や住宅街が広がる一方で近代的なビルも立ち並び、新旧入り混じった情緒豊かな街並みが広がっています。そして少し西に目を移すと、ボストン交響楽団(BSO)の本拠地であるシンフォニーホールや、ボストン・レッドソックスの本拠地で2012年に100周年を迎えたフェンウェイパーク、そして美の殿堂といえるボストン美術館などがあり、文化的にも刺激の多い街ですね。加えて、点在するシーフードレストランでは、ロブスターにクラムチャウダーなど、(アメリカでは比較的)美味しい食事…。またここには、公衆衛生領域にとどまらず、世界トップクラスの大学であるハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などがあり、学生が多く住んでいる街でもあります。大学が始まる9月に引越しの手配をしようと思うと、ボストンにいかに学生が多いのか身をもって知ることになるらしいですが…。

さて、以前もお伝えした通り、Society for Epidemiologic Research (SER) は、American Journal of Epidemiologyの母体となっている学会です。毎年、北米(主に米国)の各地で総会が開催されており、近年では、疫学理論、因果推論のシンポジウムや発表が数多く見られます。今回の総会でも、金曜日午前に開催されたPlenary Session「Causal Inference: Why Bother?」をはじめとして、因果推論に関する様々な論題が扱われていました。特に、因果を論じる際に度々言及されるmediationやinteractionに関する論題のほか、最近、徐々に注目を集めているagent-based modelに関するセッションなども開かれており、タイムリーな論題が数多く繰り広げられていました。

今回は地元ボストン開催ということもあり、ハーバード公衆衛生大学院のDr. Ichiro Kawachiも久々にSERに参加されました。Ichiro先生が最後にSERに出席したのは今から10年ほど前とのことですが、「その頃のSERは、プログラムの多くが栄養疫学に関する論題で占められていたが、今のSERは、疫学理論、因果推論、社会疫学が大きな柱となっていて、とても興味深い。学会として、いい方向に向かっていると思う。」とのことでした。この流れは、ここ数年、多くの若手理論研究者の活躍によって疫学理論が目覚しい発展を遂げていることを考えると、ある意味、すんなりと納得のいくものと言えるでしょう。また、マクロの視点から因果関係を評価することを視野に入れて、健康の社会的決定要因に対する関心が一段と高まっていることも表しているのではないでしょうか。この点で、疫学・衛生学分野で実施されている研究内容は、SERひいては国際的な疫学研究の流れと概ね合致しているのではないか…と感じた次第です。(注:やはり昨年同様、若干のバイアスの可能性は否定できません。)

なお、今回のSERでは、上記のようなSERの流れを捉えて(?)、疫学理論と社会疫学に関する2演題のポスター発表を行いました。

Suzuki E, Kashima S, Kawachi I, Subramanian SV.
Social and geographical inequalities in suicide in Japan from 1975 through 2005: a census-based longitudinal analysis.
Am J Epidemiol. 2013;177(11): Suppl., S30.

Suzuki E, Mitsuhashi T, Tsuda T, Yamamoto E.
Extended causal diagrams integrating response types and observed variables.
Am J Epidemiol. 2013;177(11): Suppl., S100.

また金曜日には、ノースカロライナ大学およびコロンビア大学の研究者とともに、「New methods for an old epidemiologic problems: age, period, and cohorts effects」と題して、age-period-cohort (APC) 分析に関するシンポジウムを行いました。

Chairs:
Whitney Robinson; co-chair Katherine M. Keyes

Speakers:
1. A potential-outcomes causal framework for age-period-cohort analysis – Etsuji Suzuki (Okayama University)
2. Hierarchical age-period-cohort models: overcoming the limitations of conventional linear models – Yang Yang (University of North Carolina, Chapel Hill)
3. A life course approach to age-period-cohort methods – Whitney Robinson (University of North Carolina, Chapel Hill)

Am J Epidemiol. 2013;177(11): Suppl., S173.

そして、シンポジウムのDiscussantは、APC分析の権威であるDr. Theodore R. Holford(エール大学)が務めてくださいました。シンポジウムでは活発な質疑応答がなされて、今後のAPC分析の更なる発展が期待されるところです。

来年のSERは、西海岸のシアトルで開催される予定です。どのようなプログラムになるのか、今から楽しみですね。

(ES)


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